スズキセミタケ?

2010/05/24

京都の虫草仲間のK山さんからセミの成虫生の不明虫草が送られてきた。静岡のT山さんという方から同定依頼があったということで、こちらに検鏡のお鉢が回ってきたというわけだ。
さて件の標本だが、昨年11月末に静岡市で採られたものということで完全に乾燥している。2cm程のアブラゼミから5本の棍棒状のストローマが出ている。体表はセミノハリセンボンに被われてはおらず、一見してスズキセミタケに見える。スズキセミタケといえば、今までに6、7例しか記録されていない大珍品だ。
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Cordyceps ryogamimontana?
Host:adult of cicada. Place:Shizuoka. Nov. 2010


検鏡の前にまず外観を詳しく調べてみる。ストローマは背中側に2本、腹側に3本で、長さ7~10mm、結実部は長さ5.5~7.5mm、径1.5~2mm。柄は径0.6mm程度。結実部の境界はやや不明瞭。先端が鈍頭の棍棒形(すりこぎ形)。色彩は乾燥しているのでよくわからないが、ほぼ黒色。柄の部分は頭部よりはやや明るい暗褐色。子嚢殻は埋生だが、密で微突出する。乾燥していることを考慮に入れれば、『原色冬虫夏草図鑑(清水大典著)』のスズキセミタケのデータとほぼ一致する。
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頭部腹面をよく見るとセミノハリセンボン Isaria takamizusanensisらしき分生子柄束がいくつか見える。まずこれから検鏡してみることにした。尚,腹部背面にも白いこぶ状のものが見えるが、これはセミノハリセンボンではなく、後に検鏡してみたが分生子のようなものは見られなかった。
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分生子柄束の一本をピンセットで摘み取り、検鏡する。全体の形、分生子形成細胞、分生子共,以前検鏡したセミノハリセンボンと違いはない。

分生子柄束
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synnema of Isaria takamizusanensis

分生子形成細胞
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conidiogenous cells of Isaria takamizusanensis

分生子
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conidia of Isaria takamizusanensis

次に小さめのストローマを一本取って調べる。全体の形状は先に書いたこととほぼ同じ。ただ、柄との境界付近の子嚢殻が少し斜埋生のようにも見える。
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stroma of Cordyceps ryogamimontana?

輪切りにして子嚢殻を見る。清水図鑑のスズキセミタケのデータよりやや小ぶりだが、小さめのストローマで乾燥標本ということを考えれば、まあこんなものか?
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perithecia of Cordyceps ryogamimontana?

このストローマからは子嚢や胞子が得られなかったので、より大きめのストローマを針でほじくって子嚢殻を取り出してつぶして検鏡した。
子嚢。中に子嚢胞子が見える。
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asci of Cordyceps ryogamimontana?

同じプレパラートの別の部分では、子嚢の中で成長して太くなったと思われる子嚢胞子の塊が見られた。幅が太くなっても子嚢胞子の隔壁間の長さ=二次胞子の長さは変わらないと思われる。
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ascospores of Cordyceps ryogamimontana?

また別の部分ではばらばらになった子嚢胞子が見られた。判りにくいが赤い矢印のところに隔壁がある。
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part-spores of Cordyceps ryogamimontana?

これらから考えて、二次胞子は5~7×1.2~1.8μm、


一見したところスズキセミタケに見えるが、念のため類似種と比較してみる。

セミの成虫生の有性時代(完全型)の虫草には以下のものがある。
1.イリオモテクマゼミタケ(Cordyceps sp.)
2.スズキセミタケ(Cordyceps ryogamimontana)
3.コゴメセミタケ(Cordyceps minuta)
4.コニシセミタケ(Cordyceps sp.)
5.Cordyceps cicadicola(中国、海南島産)

このうち3.コゴメセミタケは形態的に大きく違うので今回の標本(以下、本標本)とは別種。
5.Cordyceps cicadicola は1.イリオモテクマゼミタケと同種か極めて近縁の種と思われる。
したがって本標本は1.2.3.のどれかということになる。

1.イリオモテクマゼミタケは西表島の産とされるが、昨年、Aさんが京都産のセミノハリセンボンを追培養して形態的にイリオモテクマゼミタケと思われるストローマを発生させることに成功している。コニシセミタケ?
ストローマは尖頭の円筒形で灰白色。本標本は鈍頭の棍棒形(すりこぎ形)なのでこれも別種と思われる。
4.コニシセミタケは長楕円形の結実部で柄との境界は明瞭とされるが、『京都府 レッドデータブック』のコニシセミタケのページによると〈橙黄色、セピア色、黒色と変化する。〉〈膨らみのある円筒状が多いが、稀に膨らみのないものや背着性になるタイプもある。〉ということで、本標本と明確な違いがあるとはいえない。セミノハリセンボンが共生するとされるが、それはイリオモテクマゼミタケでも同じで、本標本でも一部にそれらしき分生子柄束が見える。
2.スズキセミタケでは今までのところセミノハリセンボンとの関係は触れられていないが、『原色冬虫夏草図鑑』のスズキセミタケの図版にはそれらしきものが描かれている。
ここまでのところでは2.スズキセミタケか4.コニシセミタケのどちらかと思われる。

さらに検鏡データを合わせて考えてみる。
子嚢殻はどの種も似通っているので判断がつかない。
二次胞子は本標本では5~7×1.2~1.8μm、イリオモテクマゼミタケでは4.5~6×0.5~0.7μm、スズキセミタケでは6~10×1~1.2μm、コニシセミタケでは2.5×1.5~2μm。胞子の幅はあまり当てにならないことが多いので、長さだけで比べると、本標本、イリオモテクマゼミタケ、スズキセミタケはほぼ同じで、コニシセミタケだけが特に短い。これで4.コニシセミタケは否定される。

以上のことから考えて、本標本は2.スズキセミタケ(Cordyceps ryogamimontana)としてよいと思われる。

注目すべきことは今回スズキセミタケと思われる標本からセミノハリセンボン(Isaria takamizusanensis)と思われる分生子柄束(synnema)が確認されたことだ。
これによりセミノハリセンボンは多系統種で、イリオモテクマゼミタケ、スズキセミタケ、コニシセミタケのいずれもがセミノハリセンボン型のanamorphを持つ可能性が高くなった。

  1. 2011/05/24(火) 17:29:00|
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