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イモムシタケについて

2011/01/04

以下の記事は本来昨年10月にアップするはずだったものだ。個展のための制作に追われまとめきれなかったのだが、ようやくまとめ終えたので遅ればせながら今回発表する。

サナギタケに似た種類で秋に大型のイモムシから出る虫草がある。この種には何度か出会っているが、以前は寄主違いのサナギタケだと考えていた。ところが乾燥標本を水で戻して検鏡したところ胞子や子嚢の長さが違ったので、今ではイモムシタケの仲間と考えている。この種と思われるものを2010年の秋は二体見つけることが出来た。一体は長岡京市で、もう一体は宇治市でだが、前者については2010年10月6日の記事を参照していただきたい。この二体の採集をきっかけに、イモムシタケについて改めて調べてみた。

イモムシタケの類似種として、サナギタケを別とすると次の3種の名が挙げられる。イモムシタケ、ベニイモムシタケ、ミジンイモムシタケだ。この3種は違いが曖昧でしばしば混同され、本当に別種なのかどうかも疑わしい。まず図鑑や論文の記述をもとに3種の違いを明らかにしていきたい。それぞれの種が載っている文献で入手できたものは以下の通り。

イモムシタケ Cordyceps kyusyuensis Kawamura
(1)『冬虫夏草菌図譜』(小林義雄、清水大典共著、1983年 保育社刊)
(2)『原色 冬虫夏草図鑑』(清水大典著、1994年 誠文堂新光社刊)
(3)『カラー版 冬虫夏草図鑑』(清水大典著、1997年 家の光協会刊)
(4)『カラー版 韓国の冬虫夏草』(Sung, Jae-mo著、1996年 Kyo-Hak Publishing刊)
(5)『中国真菌志 第32巻 虫草属』(梁宗琦主編、2007年 科学出版社刊)
(6) “Revision of the genus Cordyceps and its allies 1.” Y. Kobayasi, Bulletin of the National Science Museum, Tokyo,, 7 (1) :13 (1981)
・(1)、(2)、(3)はほぼ同じ内容。説明文と線図だけでカラー図版はない。この3つでは学名はCordyceps kyushuensis Y. Kobayasiとなっているが、(1)に出典として紹介されている(6)ではCordyceps kyusyuensis Kawamuraとなっており、こちらが正しいと思われる。Kawamuraによる記載論文はIcon. Jap.Fungi 8: 841 col. Fig. 823 (1955) に載っているようだが、こちらは参照できなかった。(6)には英文による解説と線図、2体の標本のモノクロ写真が載っている。
(尚、(6)、(7)の論文はCordyceps.usの"Literature"で見ることができる。)

ベニイモムシタケ Cordyceps ootakiensis Y. Kobayasi et D. Shimizu
(1)『冬虫夏草菌図譜』(前出)
(2)『原色 冬虫夏草図鑑』(前出)
(3)『カラー版 冬虫夏草図鑑』(前出)
(4)『カラー版 韓国の冬虫夏草』(前出)
(7) “Cordyceps species from Japan 6 ” Y. Kobayasi & D. Shimizu, Bulletin of the National Science Museum, Tokyo,, 9 (1) :15 (1983)
(8)「珍菌とされるベニイモムシタケを発見か」三村浩康、三村京子、冬虫夏草No.23(2003)
・(1)、(2)、(3)は説明文、線図、カラー図版ともほぼ同じ内容。(7)を元にしていると思われるがこちらはラテン語の記載文と線図、モノクロ写真のみ。

ミジンイモムシタケ Cordyceps sp.
(9)「昭和63年を顧みて」矢萩信夫、冬虫夏草No.9(1989)
(10)「虫草図鑑・鱗翅目」 N.M.I.自然薬食微生物研究所のホームページ内

これらの文献の記述を元に3種の違いを挙げてみる。
ストローマの形はいずれも棍棒形。大きさに少しの差はあるが個体差の範囲だろう。
ストローマの色は、イモムシタケは黄橙色(結実部)~黄色(柄)、ベニイモムシタケは赤色(結実部)~淡赤黄色(柄)、ミジンイモムシタケは朱黄色(結実部)で柄の基部は白色。
子嚢殻はイモムシタケでは半裸生、ベニイモムシタケは埋生で孔口が丸く微突出、ミジンイモムシタケは裸生密布型。
二次胞子はイモムシタケは4-5×1μ、ベニイモムシタケは3-4×1μ、ミジンイモムシタケは3-8×0.8-1.2μでほぼ同じといっていいだろう。
寄主はいずれも鱗翅目の幼虫。詳しくは後述する。

子嚢殻の半裸生と裸生密布型の違いははっきりした差といえるほどのものではない。子嚢殻は成熟するにつれて突出してくるものなので、単に熟度の違いでしかないように思われる。
結局のところイモムシタケとミジンイモムシタケの違いは色だけ、ベニイモムシタケとミジンイモムシタケの違いは子嚢殻の埋生微突出と裸生密布の違いだけということになる。

ここで10月6日と10月12日に採集したイモムシ生虫草を見てみよう。6日に採集したものは色は黄橙色で子嚢殻が突出しており、イモムシタケとミジンイモムシタケとの中間ぐらいに見える。
imo101006d.jpg
Cordyceps kyusyuensis ?
Host:larva of Lepidoptera. Place:Ngaokakyo. 06 Oct. 2010


次は12日に宇治市で採集したもの。色は橙色で子嚢殻は丸く微突出している。ベニイモムシタケとも未熟なミジンイモムシタケとも言えそうだ。
imo101012a.jpg

imo101012b.jpg
Cordyceps kyusyuensis ?
Host:larva of Lepidoptera. Place:Uji. 12 Oct. 2010


これを10日間追培養した。子嚢殻が明らかに突出してきており、半裸生になっている。ストローマの基部は初め白色だったのが朱橙色になっている。陽光の元で追培したからだろう。
imo101022a.jpg

imo101022b.jpg
same specimen, 10days after.

どうやら3種の違いがますます曖昧になってきたようだ。尚12日に採集したものも検鏡したが、6日に採集したものと差はなかった。
10月12日に採集した標本の子嚢殻、子嚢、子嚢胞子の検鏡結果を一応載せておく。10月6日に採集したものとの差はほとんどない。
imo101015a.jpg
perithecia of Cordyceps kyusyuensis ?

imo101015b.jpg
 asci of Cordyceps kyusyuensis ?

imo101015c.jpg
 ascospore of Cordyceps kyusyuensis ?

比較のために2001年に長岡京市で採集したものの写真を載せておく。子嚢殻は裸生密布型でよりミジンイモムシタケの典型に近い。
mijin2.jpg
Cordyceps kyusyuensis ?
Host:larva of Lepidoptera. Place:Nagaokakyo. Oct. 2001


3体の見かけはかなり違うが同じ時季に同じような状況で同じと思われる寄主から出ており、私は全て同じ種と考えている。

資料(4)『カラー版 韓国の冬虫夏草』にはCordyceps kyusyuensisとして多数のイモムシ生虫草のカラー写真が載っているが、ストローマの色は朱橙色で(9)、(10)に出ている写真のミジンイモムシタケと同種と思われる。
(5)『中国真菌志 第32巻 虫草属』のCordyceps kyusyuensisの項にのっている写真はモノクロだが、解説文には淡黄色、橙色至橙紅色と書いてあり、これもミジンイモムシタケと同種と思われる。
(6)の論文にはイモムシタケの2体の標本のモノクロ写真が載っているが、外見上はミジンイモムシタケと区別できない。
(9)、(10)ではイモムシタケ、ベニイモムシタケには触れていない。

これらのことから考えて、どうもイモムシタケとミジンイモムシタケとは同種ではないかと思われる。
(現在島根県に赴任しているAさんから、10月11日に採集したイモムシタケ?の写真がメールで送られてきた。ストローマの色は黄橙色(結実部)~黄色(柄)でイモムシタケの記述とよく一致するが、それ以外はミジンイモムシタケと同じだった。)

(8)で三村氏がベニイモムシタケではないかとしている3体の標本は、子嚢殻について「一見裸生に見える場合があるが、密生する半裸生~埋生」とあり、ベニイモムシタケともイモムシタケ≒ミジンイモムシタケとも取れる。氏はイモムシタケとミジンイモムシタケには触れていない。

寄主について。
(8)で三村氏は3体の標本の寄主を(1)、(2)、(3)のベニイモムシタケのカラー図版の寄主と同じとし、セダカシャチホコの幼虫と同定している。
私が二体のイモムシ生虫草を採集したのと同じ頃、神戸のIさんからメールで不明虫草の問い合わせがあった。添付写真を見ると典型的なミジンイモムシタケのようだったので、「写真の虫草はイモムシタケの仲間で、寄主はおそらくセダカシャチホコの幼虫であろう。」と返信したところ、「寄主のイモムシは7~8cmあり、シャチホコガの幼虫にしては大きすぎるのではないか。」との指摘があった。
幼虫図鑑やイモムシハンドブックなどで調べてみたが、セダカシャチホコの幼虫は50mm程なので、たしかにこの虫草の寄主としては小さすぎるようだ。10月12日に私が採集したものも寄主の全長は8cmぐらいある。
これも同じ頃、山鳥さんの掲示板に投稿したイモムシタケについての私の書き込みに対して奈良県のKIQさんからレスがあり、「秋に出るこの種の虫草の寄主はトビイロスズメの幼虫と同定している。」ということだった。
たしかに大きさといい形や色といい、よく似ているが、トビイロスズメの幼虫なら尾部に尾角突起があるはずだ。10月12日に採集した標本を見てもそのようなものは見えない。しかしルーペで拡大してみると尾部の上面に気門ではない丸い痕跡のような模様が見えた。トビイロスズメの幼虫なら尾角突起があるはずの場所だ。おそらく尾角突起がとれた跡なのだろう。
imo101012d2.jpg
写真の1で示した場所が気門で、2で示した場所がこの痕跡。

頭部の形もトビイロスズメの幼虫として矛盾はない。
imo101012c2.jpg

トビイロスズメの終齢幼虫は土中で冬越しをする生態なので、このことからもイモムシタケ≒ミジンイモムシタケの寄主はトビイロスズメの幼虫だとしていいだろう。
(5)『中国真菌志 第32巻 虫草属』では「Cordyceps kyusyuensisの寄主は九州虫草是一種寄生豆天蛾Clanis bilineata Walker幼虫的大型虫草」となっている。Clanis bilineata はすなわちトビイロスズメ。 
(10)ではミジンイモムシタケの寄主はヤママユガの仲間の幼虫としている。ヤママユガの幼虫も同じような大きさ、形、色だが、名前の通り繭を作る種類なので、生態的にはトビイロスズメのほうがぴったりすると思われる。
(1)、(2)、(3)のベニイモムシタケのカラー図版の寄主はセダカシャチホコの幼虫のようだ。
ただ、(8)で三村氏がベニイモムシタケではないかとしている3体の標本は体長がそれぞれ6.5、7.0、5.5cmで、セダカシャチホコの幼虫としては大きすぎる。尾角突起がとれたトビイロスズメの幼虫の可能性がある。
(4)のCordyceps ootakiensisの項に載っているカラー写真のベニイモムシタケの寄主はセダカシャチホコの幼虫と思われる。尚この写真を見る限りでは子嚢殻は完埋生。

アナモルフについて。
10月12日に採集した標本を追培したところ、寄主の体表を被う菌糸叢が赤っぽくなってきた。一部を採って検鏡すると分生子と分生子形成細胞と思われるものが見えた。
imo101017a.jpg
conida of Cordyceps kyusyuensis ?

imo101017b.jpg
 conidiogenous cells of Cordyceps kyusyuensis ?

(6)にはCordyceps kyusyuensisのアナモルフとしてSporotrichum formosanum Y. Kobayasiが新種記載されている。
線図を見る限りでは上の分生子の写真の右下隅の分生子形成細胞のように、分生子がまとわりついたように描かれている。
ところが分生子を洗い流して分生子形成細胞だけを見ると、どうやら先端から分生子を送り出すフィアロ型のように見える。
分生子の形や大きさはSporotrichum formosanumとよく一致する。

結論として。
・イモムシタケとミジンイモムシタケはストローマの色彩以外に違いはなく、色彩の違いも同種内の個体差の範囲と思われる。同種としていいだろう。
・海外(韓国と中国)でCordyceps kyusyuensis(イモムシタケ)としているものはミジンイモムシタケと同じである。
・イモムシタケ≒ミジンイモムシタケの主な寄主はトビイロスズメの幼虫である。
・ベニイモムシタケについては確実にこの種だと言える資料が非常に少なく、イモムシタケ≒ミジンイモムシタケと同じとも違うとも決めかねる。少ない資料の範囲では寄主はセダカシャチホコの幼虫である。とりあえずイモムシタケ≒ミジンイモムシタケとは別種としておく。
(尚、インターネットのブログ等でベニイモムシタケとされているものはほとんどがミジンイモムシタケと思われる。)

DNA解析の結果、Cordyceps kyusyuensis(イモムシタケ)とCordyceps militaris(サナギタケ)は極めて近縁だということが明らかになっていることを付け加えておく。(Gi-Ho Sung et al. 2007)
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  1. 2011/01/04(火) 21:44:12|
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