アリタケとマルミノアリタケ

2006/03/11

アリタケ Cordyceps japonensisといえば日本の虫草のうちでも最も普通とされる種類のひとつで、普通のきのこ図鑑などにも載っているほどポピュラーな虫草だ。
ところがもう一種マルミノアリタケ(マルミアリタケ) Cordyceps formicarumというのがある。この両者の違いがよくわからない。別々の学名がついているぐらいだから別種のはずなのだが、写真や図版などを見る限り全く同じに見える。

ari5.jpg

アリタケ Cordyceps japonensis Hara
Bot. Mag. Tokyo 28 : 351 (1914)
マルミノアリタケ Cordyceps formicarum Y.Kobayasi
Sci. Rep. Tokyo Bunri. Dai. Sect. 2 (84) : 53-260 (1941)

記載文から両種の特徴を比べると、アリタケのほうがやや小振りなぐらいで外観や生態はほぼ相似している。
顕微鏡的な特徴を比較すると次の通り。

アリタケのほうは、被子器(子嚢殻)200×160~190μm、子嚢130~170×5~6μm、二次胞子幅1~2μm
マルミノアリタケのほうは、被子器(子嚢殻)830×370μm、子嚢700×4~5.5μm、二次胞子9.8~10.5×1~1.5μm

アリタケのほうは胞子は幅のみの記載だが、付図を見る限りではマルミノアリタケのものと変わらないようだ。
従って両者の主な相違は被子器の大きさと子嚢の長さということになる。被子器で約4倍、子嚢の長さで4~5倍、マルミノアリタケのほうがアリタケより数字が大きく、この差は個体差の範囲を越えているようにも見える。

 参考;『アリ(膜翅目)に寄生する冬虫夏草』吉見昭一, 冬虫夏草菌研究会通信No.1, 1998

この両種については故、吉見先生が深く研究しておられた。私は直接御指導いただく機会がなかったが、会の先輩方に聞いた所に寄ると、先生は各地からアリタケと思われるものを送ってもらって検鏡されたそうだ。その結果はそのほとんど(或いは全て?)がマルミノアリタケのデータと一致したという。

1986年の『京都のキノコ図鑑』吉見昭一・高山栄(京都新聞社)ではアリタケが普通、マルミノアリタケがやや稀となっている。ところが1998年の上記論文では”この相違点(被子器の大きさと子嚢の長さ)から見てアリタケは極めて少なく、多くはマルミノアリタケである。”となっている。この二つの著作の間に上記の調査が行われたのだろう。

従来アリタケは普通種とされていたので一々検鏡せずに全てアリタケとしていたのだが、改めて検鏡したところほとんど(或いは全て?)がマルミノアリタケだったということだ。図鑑などにアリタケとして出ているものも検鏡すればおそらくマルミノアリタケなのだろう。

私が検鏡したものも全てがマルミノアリタケだった。

ari50520ay.jpg
子嚢

ari50527ez.jpg
子嚢胞子 64個の二次胞子に分裂する。

ari50527fz.jpg
二次胞子

では真のアリタケは存在するのだろうか?

ari8.jpg
2003年の5月に大量のマルミノアリタケをみつけた。中に非常に小さな個体があった。同じ日に同じ場所で採れたものなので全て同種の可能性が高い。大きさの違いは寄主の大きさによる栄養の差からきているのだろう。寄主は大きなものはムネアカオオアリのメス、小さなものは同種のオスと思われる。ふと思いついて一番小さなものを検鏡してみた。

ari2.jpg
すると長さ200μmぐらいの短い子嚢が見えた。アリタケのデータよりやや長いがかなり近い。

ari1.jpg
もちろんこれをもってアリタケというわけではない。同じ子嚢殻の入っていた他の子嚢は400μmぐらいのものが多く200~500μmと幅がある。マルミノアリタケには違い無いのだが全体として記載データよりかなり短い。やや未熟なのだろうがばらばらになった二次胞子が写っていることから一応成熟していると見ていいだろう。
もともと被子器や子嚢の長さは熟度や栄養状態によってかなり違いがあるのだ。比較的個体差が少ないとされる二次胞子の大きさにしても実際に検鏡してみるとかなりばらつきがあるものだ。

私にはこの両種は同一種のように思われる。
原氏はこのような栄養状態の悪い個体から検鏡して記載したのではないだろうか?
アリタケのタイプ標本は行方不明で結論を出すのは不可能なのだが。
  1. 2006/03/11(土) 13:36:10|
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  4. コメント:9
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コメント

アリタケとマルミノアリタケ

マルミアリタケの原産地は京都(清水山)なんですね。
発表時にC.myrmecophilaとの差異を論じていますが、子のうが長く、子のう果表面が平滑(前者は縦の畝がある)などアリタケとの比較に似ていますね。
で、アリタケとマルミ(ノ)アリタケが同一種なら、名前は先に出ているアリタケ(アリヤドリタケ)になるのでしょうか。
  1. 2006/03/13(月) 05:21:07 |
  2. URL |
  3. トリフィ #4eg7mJls
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Re;アリタケとマルミノアリタケ

トリフィさん、どうも。
もしアリタケとマルミ(ノ)アリタケが同一種なら、アリタケのほうは記載内容に問題があることになりますが、それでも有効なんでしょうかね?
アリタケの記載データに一致する完熟個体が見つかるか、タイプ標本が見つかるかしないとあいまいなままのようですね。
とりあえずマルミ(ノ)アリタケを使っておくのが無難かな?
C.myrmecophilaも子嚢や二次胞子の形だけでは区別が難しそうですね。
  1. 2006/03/13(月) 19:33:40 |
  2. URL |
  3. ignatius #ysthiAkw
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Re2:アリタケとマルミノアリタケ

 イグナティウスさま・トリフィさま:

 >それでも有効なんでしょうかね?


 命名規約上は、タイプ標本がなくなってしまっていても、それだけでは、その学名を廃棄するわけにはいかないことになってるので困ります^^;

 アリタケはマルミノアリタケの一変異(矮小型、でしょうか?)というデータを挙げて、両者は同一の分類群である、と考えるのが一番妥当ではないかと思いますが、その場合には、命名上の優先権を持つ C. japonensis の学名を用いることになり、C. fomicarum はそのシノニムとなりますね.

 小林義雄博士が新種記載した冬虫夏草類のタイプ標本も,その多くがすでに標本としての価値を失ってしまっている、と耳にしたことがあります.

 もし C. japonensis と C. formicarum が同一であるとしたら、小林博士が記載に用いた C. formicarum の標本をネオタイプ標本として指定するか、あるいは、小林博士の記載にぴったり合う標本を、新たにネオタイプとして指定し直す必要があります.

 なお、C.myrmecophilaの名も、最近では forquignonii Quél.(1887)のシノニム扱いになっているようです.
 
  1. 2006/03/21(火) 11:31:43 |
  2. URL |
  3. イグチ潔 #YSMFrnbw
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Re3:アリタケとマルミノアリタケ

イグチさん、コメントありがとうございます。

上に引用した吉見先生の論文によると、”マルミノアリタケのタイプ標本も調査してきたがまだ見つからない”のでその採取場所(京都市東山区清水山稚児ケ池近く)付近で発見したものをマルミノアリタケと同定して発表されたということです。(日本冬虫夏草の会No.2:36~37)

>なお、C.myrmecophilaの名も、最近ではforquignonii(1887)のシノニム扱いになっているようです.

そうなんですか? C.forquignoniiは寄主がハエということですが、寄主の誤認か寄主違い寄生ということかな?
以前アメリカの某虫草サイトにC.irangiensisの名で出ていた画像がいつの間にかC.myrmecophilaになっていますが、きっと多重記載というのが多いのでしょうね。和名のほうも濫立ぎみのようですから、もう少し整理してほしいものですが・・
  1. 2006/03/22(水) 18:06:17 |
  2. URL |
  3. ignatius #ysthiAkw
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Re: 蝶の冬虫夏草について

飯田様、コメントいただきありがとうございました。返信しようとしましたが、アドレスが間違っているようで、送れませんでした。改めてメールアドレスをお願いします。
  1. 2014/05/13(火) 19:03:37 |
  2. URL |
  3. ignatius #ysthiAkw
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寄主のアリについて

はじめまして.数年前の記事に失礼いたします.アリタケで調べていてこちらにたどりつきました.
寄主のアリについてなのですが,ムネアカオオアリで間違いありませんが,大きな個体が女王アリで,小さな個体は雄ではなく働きアリです.雄アリには羽が生えており,おおよそ同じ種類には見えません.
私もこのアリに寄生する冬虫夏草を何度か見かけており,他にもアリはたくさん種類がいるのになぜこのアリなのかな,と不思議に思うことがあります.
長文失礼いたしました.
  1. 2017/09/16(土) 18:41:36 |
  2. URL |
  3. 博多権三 #-
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ありがとうございます。

博多権三様、しばらく自分のブログも見ていなかったので、コメントいただいたのに気付かず、返事が遅れてしまい申し訳ありません。当時はアリに関する知識も今以上に乏しく、おかしなことを書いていますね。ご指摘ありがとうございました。今ではもちろん知っていますが、11年前にはこんなことも知らなったということを覚えておくためにも、本文のほうは訂正しないでおきます。宿主はムネアカオオアリとミカドオオアリが大半ですが、稀にチクシトゲアリから出たものを見ることがあります。
  1. 2017/10/03(火) 23:24:42 |
  2. URL |
  3. ignatius #ysthiAkw
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コメントありがとうございます

ignatiusさま

お返事ありがとうございます.ミカドを宿主にすることもあるのですね.似た大きさのクロオオアリの仲間では見つかってはいないのか,興味が湧いてきました.
他にチクシトゲアリというのもまた面白いですね.
  1. 2017/10/04(水) 00:51:38 |
  2. URL |
  3. 博多権三 #-
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マルミアリタケの宿主

私が見つけたものではムネアカが多いですが、ネットの画像などではミカドも多いです。チクシトゲアリのは二回だけ見ました。自分では見たことがありませんがクロオオアリからのものも報告されています。他種ではイトヒキミジンアリタケがムネアカとミカド、タイワンアリタケがチクシトゲアリ、クビオレアリタケがトゲアリから出ます。これらの種名でブログ内検索してみてください。
  1. 2017/10/04(水) 21:47:15 |
  2. URL |
  3. ignatius #ysthiAkw
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